不純物の無い3次元電子気体中の準粒子の位相緩和時間
は、
準粒子の励起エネルギーの逆自乗に比例する。したがって、低励起エネルギーの準粒子の寿命は非常に長くなる。このことは、電子ガスのフェル・♂t体論[5]の基礎と成っており、多くの物理学者によって研究されてきた。
電子ガス中に多くの不純物がある場合は、電子は不純物に散乱されて拡散的な運動をするようになる。このような拡散領域における電子の量子干渉効果の研究に
より、不純物散乱が位相緩和にどのような影響を与えるかが研究されてきた[6,7]。
不純物の無い(バリスティックな)2次元電子ガス[8,9,10]中の位相緩和に
ついても研究されてきた。
ところが、最近量子ドットと呼ばれる閉じこめられた2次元電子ガス中の位相緩和時間が測定されるようになり[11,12]、このような
ポテンシャルによって閉じこめられた2次元電子ガス中の位相緩和時間に対する理論的興味が持たれるようになった。
不純物のない無限に広がった電子ガスと比べて、拡散領域の電子ガスと量子ドット内に 閉じこめられたバリスティックな電子ガスは、ポテンシャルによる散乱があるという点で共通している。準粒子は、不純物のポテンシャルあるいは量子ドットの 壁によって散乱 される。拡散領域の電子ガスの位相緩和時間は不純物のない電子ガスに比べてずっと 短くなるが、これには二つの理由がある。第一に、不純物散乱は電子の運動を妨げるので電子ガスの金属的な性質を弱める。つまり、クーロン力の遮蔽が弱くな る。 第二に、準粒子と不純物ポテンシャルとの間で運動量移行が許されるので終状態の位相空間が広くなる。 バリスティックな量子ドットでは、電子は量子ドット内を自由に運動できるので、 遮蔽効果はほとんど変わらないはずだ。しかし、準粒子は量子ドットの壁に運動量を 与えることができるので、運動量移行の影響は重要になる可ヌkしたがって、量子ドット中の位相緩和時間は、不純物のない無限に広がった 電子ガスと比べて短くなることがヘk以下、位相緩和時間に対するこの運動量移行の影響を準粒子の 古典軌道を用いて計算しよう[13,14,15]。
第 II A 節では、量子力学の摂動論を用いて無限に広がった2次元電子ガス中での 位相緩和時間を求める方法を復習する。 第II B節では、任意の古典軌道を持った準粒子の位相緩和時間に対する 半古典的ノk第III節では、この方法を等速直線運動、鏡面反射、スキップ運動をする 準粒子に対して具体的に計算する。
まず、Giuliani and Quinn [10]にしたがって、無限に広がった2次元 電子ガスの 位相緩和時間を摂動論を使って計算しよう。
ここで、
は化学ポテンシャル、
は運動量
の準粒子の
エネルギー、
は準粒子の励起エネルギーである。
絶対零度では、(1)中の温度因子は、

となって、準粒子の励起エネルギー以下のエネルギー移行のみを許す。 したがって、 (1)はつぎのように簡単化される。
電子正孔励起に対する、誘電関数の長波長近似
を(3)に導入すれば、
における位相緩和時間の主要項
が得られる。ただし、
はフェル・<Gネルギーである。
の温度では、(1)中の温度因子は

と近似できる。したがって、熱エネルギー
以下の励起、
脱励起が
許される。
この指数因子は、
積分の上限、下限で置き換えられ、
(1) は
となる。
誘電関数の長波長近似(4)をもちいて、
温度
における位相緩和時間の主要項
を得る。
高温の式(8)は、絶対零度の式(5)の
を
で置き換えて、全体を2狽靴襪譴估世蕕譴襪海箸肪躇佞靴
燭ぁ」
また、ここで述べたような低エネルギーに対しては、プラズモン励起は禁サ・
されている。
古典力学によれば、電子ガス中を運動している荷電粒子が単位時間当たりに 失うエネルギーは、その荷電粒子に働いてる電気力と粒子の速度の内積でノk[13,14,15]
ただし、
は粒子の電荷、
は
粒子の位置での電場、
は粒子の古典軌道、
そして、
は粒子の速度だ。
この電場は、荷電粒子のクーロン力がもたらした電子ガスの分極に
よるものだ。電場は、ポアッ・・IMG ALIGN=BOTTOM ALT="" SRC="img166.gif">
により計算できる。ただし、
は静電ポテンシャル、
は粒子の密度、
は誘電関数だ。
われわれは、2次元電子ガスとこの2次元電子ガス中の準粒子を扱っているので、
密度
は
でゼロになる。
したがって、静電ポテンシャル
は、
で
ラプラス方程式
を満たす。
このことを考慮して、静電ポテンシャルの2次元フーリエ変換

を導入する。ここで、
は2次元波数ベクトルであり、
はその
大きさだ。
準粒子の密度およびそのフーリエ変換を
と定義する。
平面
におけるポワッ・k

が求まり、電場と速度の内積は
となる。(14)を(9) に代入すれば、単位時間あたりの エネルギー損失の式
を得る。
式(15)は、
を運動量移行
、
エネルギー移行
の遷移が起こる単位時間あたりの確率とすれ
ば、
積
の和として考えられる。
したがって、単位時間あたりの全遷移確率は、(15)の被積分関数を
で割ることで得られる。
定常状態の位相緩和時間は、(16)を長い時間間隔
にわたって平均すれば得られる。
無限に広がった2次元電子ガス中の準粒子の運動は、
を一定の
速度として
等速直線運動
でノkこのとき、密度(12)は
となる。式(18)を(17)に代入して、 デルタ関数の2乗に関する公式

を用いれば、位相緩和時間
を得る。この式は、量子論による結果(3)と、
デルタ関数中の小さな反跳エネルギー
を除いて一致する。
この反跳エネルギーは主要項(5)に影響を与えない。
高温
に対する式は、量子論と同様に、
(20)の中の
を
で置き換えて、
全体を2狽靴譴侘匹ぁ」
ポテンシャルの壁によって一回反射される準粒子の位相緩和時間を計算しよう。
位相緩和率(16)を長い時間間隔
に
わたって積分すれば、
を得る。式(21)で、
に比例する項は定常的な位相緩和を
ノ扞MG ALIGN=BOTTOM ALT="" SRC="img203.gif">に依存しない項は反射の際に起きる位相緩和をノk
散乱角
の粒子の古典軌道は
とかける。ただし、
は粒子の速さだ。
式(22)を(12)に代入すれば、
粒子密度のフーリエ変換
が得られる。ただし、主値の項を無視してデルタ関数の項のみを考慮した。 この粒子密度を(21)に代入して軌道全体の位相緩和確率
を得る。ここで、同じ引数のデルタ関数の自乗は
に比例
する項を与え、
異なった引数のデルタ関数の関は
に依存しない項を与える。
式(4)を(24)に代入して積分を実行すれば、
一回の散乱あたりの位相緩和確率が求まる。

フェル・¢ャ度を
、量子ドットのサイズを
とすれば、量子ドット中の準粒子はポテンシャルの壁に
の頻度で反射される。
よって、絶対零度での量子ドット中の位相緩和時間は、

と見積もられる。また、高温
での位相緩和は
と見積もられる。
ここで注目したいのは、(27)は
に比例するの対し、
(8)は
に比例することだ。
非常に低温では、粒子の反射による位相緩和は、等速直線運動による
位相緩和より、ずっと重要になる。
まとめれば、単位時間あたりの位相緩和は、高温
では
のように振る舞い、
低温
では
のように
振る舞う。そして、極低温
では
に依存しない。
バリスティックな2次元電子ガスに垂直な磁場をかけると、準粒子の古典軌道は ア♂^動となる。
ただし、
はサイクロトロン振動数、
はサイクロトロン半径である。
準粒子の運動が周期的になるので、時間に関するフーリエ変換は、
振動数
のフーリエ級数で置き換える。
式(28)を用いれば、粒子密度はつぎのようになる。
この粒子密度を式(17)のフーリエ級数版に代入して、 弱い磁場中での位相緩和率を得る。
ここで、磁場が充分弱くてゼロ磁場での誘電関数が使えるとした。
この式は、等速直線運動の位相緩和率と比較して
の因子だけ
異なる。磁場がゼロでないとき、この
の因子は平均値
を
中心として激しく振動する。したがって、弱い磁場は位相緩和を乱Г垢・
といえよう。
比較的強い磁場中のバリスティックな量子ドットを流れる電流は、
端電流状態によって運ばれると考えられている。
端電流状態に対応する古典軌道は、ポテンシャル壁上を振動数
で
跳ねる水切り運動となる。
したがって、端電流状態の位相緩和率は準粒子のア♂^動による部分と
壁での反射による部分からなる。

ここで、
であり、また、

である。
鏡面反射の場合と同様に、低温
では反射による位相緩和が
重要で、
の温度依存性を示す。
また、磁場が比較的強くて準粒子がポテンシャル壁に沿って何度も跳ねる場合
(
)、磁場が大きくなるにつれて反射による位相緩和率が
大きくなる。単位時間あたりの反射の回数が磁場の強さに比例するからだ。
バリスティックな量子ドット中の任意の古典軌道に対して適用できる位相緩和率の半古典的ノkまず、このノk量子論によって求めた結果と一致することを確認
した。
つぎに、鏡面反射をする準粒子の位相緩和をもとめた。
準粒子がポテンシャル壁で散乱する際に、
の温度依存性を
持つ位相緩和が起きることが判った。これは、等速直線運動の準粒子の
の温度依存性をもつ位相緩和や、
拡散領域の位相緩和[16]と対照的である。
反射による位相緩和は
の温度依存性を持っているので、
低温では等速直線運動による位相緩和より重要になる。
最後に、等速ア♂^動の位相緩和を計算して、弱磁場が位相緩和を
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最近測定された量子ドット中の位相緩和率[11,12]は、
極低温では温度に依存しないが、温度を上げると
に比例する振
る舞いを
示している。これらの測定結果は、われわれの半古典論の計算によって
解釈できるかもしれない。
より定量的な計算のためには、誘電関数に対する、
2次元電子ガスの境界の影響や磁場の影響を
考慮することが重要となるだろう。
有益な議論をしてくださったJ.P.Bird, M.Stopa, V.V.Ponomarenko および H.Hofmann の諸氏および、いつも著者を励ましてくだっさった K.Ishibashi, Y.Aoyagi, T.Sugano の諸氏に対して心から感謝します。 この研究は、理化学研究所の基礎特別研究員制度によって成されました。